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2008年1月 8日 (火)

10−5 自殺率

 近年、日本では特に高い自殺率が続いています。世界でも十番目くらいに悪い状況です。残念なことに、歴史的にも日本の自殺率は高い傾向にありました。現在、日本より高い自殺率なのは、ロシアや東欧諸国など全て旧東側の国々です。両大戦間のドイツ、自由化後のロシアなど、一般的に国情が不安定な場合は自殺率が高まる傾向にあります。
 多くの統計を用いて、自殺を社会現象として分析した古典がデュルケームの自殺論です。1897年に公表されました。デュルケームによれば、夜よりも昼に自殺は増え、男性は女性よりも自殺しやすく、年を経るごとに自殺率は上昇します。他方、子供がいると自殺率は減少します。戦争がおきると、その国の自殺率は減少します。また、当時のヨーロッパでは、プロテスタントはカソリックよりも自殺率が高く、都市は農村よりも自殺率が高い傾向にありました。(ただし、日本では農村でも自殺率が低くなるわけではありません。)自殺する個々人をミクロに心理分析することも重要ですが、自殺を生み出す環境をマクロに社会分析するデュルケームの方法も大変有意義です。
 デュルケームの分析によれば、軍人など、所属する共同体と特に密接な関係にある人々は自殺率が高い傾向にあります。反対に、作家など、共同体への参加が希薄な人々も自殺率が高い傾向にあります。個人と共同体の間柄が近すぎても、遠すぎても自殺率は高まります。個人が社会に埋没するのも、社会から孤立するのも芳しくないということでしょう。
 多くの人のイメージ通り、不況になると自殺率は増える傾向があります。ただし、デュルケームによれば、好景気でも自殺率が増加することが歴史的にあったそうです。好景気もバブルのような混乱に結びつくと、社会ルールやモラルがあやふやになります。そうすると、人々は満足を感じづらくなって、社会的に不安感が高まるそうです。このような社会基準が分からなくなってしまった状態をアノミーと呼びます。アノミーに陥ると、社会は一層混乱しますし、自殺率も上昇します。
 戦後日本の自殺率は三度ほど、高まりました。経済成長に入る前の段階、低成長になり不況に直面した昭和の末、そして平成十年以降の現在です。しかも、これら三つの時期で高い自殺率を引き起こしたのが、なんと同一の世代なのです。昭和一桁以降の戦前生まれの世代です。それらの人々の世代的な経験が、高い自殺率につながっているとしか考えられません。多角的な分析・解明が求められる社会現象です。
 平成九年までは日本の自殺者数は長らく、二万人台でした。それが、平成十年から三万人台になり、この状況が十年間も続いています。平成六年からのわずか四年間で自殺者数は一万人増加し、1.5倍増加しました。警察庁の統計によれば、この十年で経済生活を原因とするものが3倍へ、勤務問題を原因とするものが1.5倍へ増加しました。自殺原因の半分は病気によるものと分類されていますが、病気が原因であるものの中にも、生活苦を複合的要因とするものもあるものもかなりあると推測されます。弱者は不況の被害を真っ先にこうむります。
 日本の自殺率はシンプルに不況になると高まり、好況になると低まる傾向にあります。自由主義経済の原則は競争です。競争が効率を高め、社会を発展させます。でも、競争は勝者も敗者も生みます。競争社会に安全柵を設けなければ、敗者が死者に転じます。政府は経済的弱者や競争に負けた人に手を差し伸べるべきです。自助努力が社会の基本でしょうし、モラルハザード(経済倫理破綻)を懸念する意見もあります。でも、モラルハザードが起きるくらいで、自殺者数が減るなら結構なことだと思います。自殺者を減少させる政策は政府の最優先事項だと個人的には考えます。

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