« 8−3 ニート | トップページ | 8−5 医療制度2 »

2007年12月14日 (金)

8−4 医療制度1

 日本で医療費は30兆円を超える規模です。高齢化社会の進展ともに、医療費がGDPに占める割合も増加しています。ただし、先進国の集まりであるOECDでは、日本は今のところ平均的な水準です。総医療費がGDPに占める割合が最も高いのはアメリカです。ちょっと古いですが、02年のOECDデータによるとアメリカの値は14.6%でして、二位のスイスの11.1%と大きな開きがあります。ちなみに日本は7.9%です。
 医療費が経済全体に占める割合が大きいのだから、アメリカの医療は広く行き渡っていると思いがちですが、現実は全く反対です。アメリカは先進国で唯一、全国民を対象にした公的な医療保障がない国です。一般の人は、民間の医療保険を利用しています。公的な医療保障には高齢者と障害者を対象にしたメディケアという制度と貧困者を対象にしたメディケイドという公的制度はありますが、国民の15%以上を占める4000万人以上の人々が何の医療保険にも加入出来ていません。保険に加入してない人は、医療費の支払いが多額になるので、病気や怪我をしても病院に通えません。反対にお金さえ払えば、世界で最も進んだ医療が受けられるのもアメリカです。
 医療制度でアメリカと反対に位置するのがイギリスです。第二次大戦直後に定められた法律によって、生まれてから死ぬまで、予防医療やリハビリなどを含む包括的な医療サービスをイギリス国民は受けることができます。一般の税金を財源にして、国が責任を負う制度です。日本と大きく異なるのは、登録した開業医に初めに診療を受けなければならない点でして、自由に病院を選ぶことができません。また、医療全体が国の予算で管理されているので医療費全体はコントロール可能ですが、救急でない場合は順番が来ないと長い間入院できないなど、医療サーブスの量に制約があります。
 日本では患者が病院を自由に選べます。さらに、全国民が医療保険に加入しています。公的な色彩の強いイギリス型と民間の色彩の強いアメリカ型の中間に位置しています。多くの先進国も日本と同じ中間的な制度です。一般に経済学では、国よりも市場の方が効率的なサービス提供が可能とされています。しかし、アメリカを見るかぎり、医療では市場はうまく機能しないようです。命あっての物種です。人は命のためなら、いくらでもお金を払います。経済学で言う予算制約が働きませし、医者と患者の間には情報の非対称性も存在します。ですから、市場を通じて医療サービスはちょうど良い水準に落ち着きません。
 現時点では日本の医療費がGDPに占める割合は先進国では平均的な水準ですが、高齢化がどんどん進むので、今の制度のままだと経済全体への負担は今後増加します。だから、政府も患者負担を増やしたり、入院期間を短縮したりするなど医療制度改革に取組んでいます。だれもが医療を受けられる制度を維持しようとすれば、従来の質の向上や量の確保だけでなく、医療の効率化が避けられない状況です。医療で最も優先されるべきは質ですが、質を確保するためにもある程度、経済合理性も加味する必要が出てきています。

« 8−3 ニート | トップページ | 8−5 医療制度2 »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事