8−10 年金
20世紀は税金が選挙の主な争点でしたが、21世紀に入って新たに、年金が争点に上がることが増えました。国に支払わねばならないお金だけでなく、国から受給するお金も社会的な関心に加わったことになります。高齢化社会が進展し、老後の生活が多くの人に身近なテーマになったのが理由です。
年金には自分で積み立てた金額を受け取る積立方式と、積立額によらずに金額を受け取る賦課方式の二つの方式があります。賦課方式というのは、その年に国が支払う年金総額を集めた額でまかなうやり方です。現役で働いている世代から高齢者世代への社会的仕送りとみなせます。昭和34年に国民年金が制度化された時は、日本は積立方式を採用していました。しかし、当時はインフレの時代でした。その後、年金の実質的な受取額をインフレで目減りさせないために、物価にスライドさせる方式が導入されました。また、高齢化が進展するとともに、一年間での年金の支払総額が増加するようになりました。そこで、賦課方式を加味した、修正された積立方式に日本の制度は変化してゆきました。
日本の年金制度は、国民全てが対象になる強制的な上記の国民年金を基本にします。その上に、サラリーマンや公務員が給料に応じて支払う二階部分があります。自営業者は二階部分が義務ではありません。サラリーマンや公務員は二階建て部分も払っているので、受取額は自営業者よりも大きくなります。
ところで、年金には公的年金だけでなく、私的年金があります。私的年金は自主的に金融機関に積み立てる一種の貯蓄のようなものです。病気は予想できませんが、老いは時間とともに確実にやってきます。であるなら、公的年金はなくとも私的年金だけで済むような印象もあります。しかし、年金は超長期の金融サービスです。積立開始から受給までに半世紀近くの時間を経ます。その間には、予期出来ない経済変動や社会変動があるかもしれません。民間金融機関だけではリスクをまかないきれない可能性もあります。なので、それらのリスクを一国の単位でカバーしようというのが公的年金です。また、強制でないと老後に備えない類いの人はいます。そういう人に強制的に老後への備えをさせる側面も公的年金にはあります。他方、私的年金は個々人によるプラスアルファの備えです。最低限の備えである公的年金を補完する関係です。
その公的年金の運営がひどいことが今年に入って白日の下にさらされました。理由は大きく三つあると考えます。まずは、制度的な点です。積立額に関わらずに年金を支給する方式なので、年金記録を管理しなければならないとの意識が年金制度運営者である社会保険庁に欠けていました。次に、歴史的な側面があげられると思います。日本の年金制度の発端は軍人恩給です。恩給とは国が公務員との特別な関係に基づいて、使用者として給付するものです。鎌倉・室町時代に家臣の奉公に対して主人が所領などを与えたことも指します。現在の制度の背後にも、国が特別に支払ってやるとの意識を感じることがあります。記録がない場合、国民が支払ったことを証明しなければならないことなどはその一例です。資金を管理する側の責任が忘れ去られています。最後は、厚生労働省と社会保険庁の職業倫理の崩壊です。何十兆円の国庫債務を残した国鉄に匹敵するひどさだと思います。公務員制度と組合制度が交わったある場合に、構造的にモラルがなくなる最悪の例です。
杜撰な管理は何十年にわたって続いてきました。これを直すにも長い時間がかかります。選挙の毎に争点にしてチェックを繰り返す以外に方法はないでしょう。選挙の争点になりさえすれば、与党は制度運営者の改革を継続します。それを続けていけば、運営管理自体は良い方向に向かうでしょう。
問題は公的年金が制度として持つかどうかです。年金は単純な算数です。おおざっぱに言って、積立方式ならば積み立てた金額を戻すだけですし、賦課方式なら現役世代の所得を高齢者にまわすだけです。そこにはマジックはありません。足りない分を税金で補填するにしても、税金はだれかが支払います。国債を発効してまかなっても、将来につけを先送りしたことにしかなりません。年金制度は、いつ誰が負担するかの算数です。
これからますます高齢化は進展します。現役世代が減り、高齢者の数が増えます。そもそも公的年金とは国全体での助け合いの制度です。弱者から助けるのが筋でしょうから、富裕な高齢者は年金受給額のカットが進むことになると予想します。加えて、受給者の数が増えるので、広く薄くの給付になり、受給水準全体の低下も避けられないでしょう。平均的所得を有する人は、自ら老後に備える必要が一層高まることになります。年金でノンビリ暮すのは、老後の一つの理想です。しかし、これからは公的年金を全面的にあてにしない方が現実的だと思います。
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