5−2 憲法と国
憲法とは国の最も基本となる法です。歴史的には、統治に関する内容から基本的人権を含む内容に拡大してきました。日本では明治22年に、近代的憲法として大日本帝国憲法が公表されました。当時の人々は、憲法の内容を知る前から、憲法制定を祝い、提灯行列をしたそうです。日本が欧米並みに近代的な憲法を持つ国になり、自らも明示的に国民(臣民)になったことを当時の人々は祝ったのでしょう。士農工商の身分制がない新しい社会を歓迎する気分だったのだと思います。日米安全保障条約改正でも、改正内容よりも改正すること自体が問題になりました。社会的に大きな影響のある法では、往々にして、内容よりも衣が世間では重要になります。
日本にとって二つ目の近代憲法が現在の日本国憲法です。日本国憲法はGHQ占領下の昭和21年に公布され、翌年に施行されました。形式的には大日本帝国憲法の改正がとられています。基本的人権の尊重、国民主権、平和主義の三つが特色と習いました。中でも基本的人権の尊重が憲法の本質と理解されます。人権、人権というと難しそうな響きですし、左翼的な感じもします。しかし、ヒューマン・ライツの訳語にすぎません。人間の権利という意味ですから、ことさら難しく考える必要はないでしょう。人らしく生きる、他人に対して人がましく接するなどがニュアンスです。具体的には、幸せを求めたり、自由であったり、法の下で平等であったりする権利です。また、アメリカ合衆国憲法と異なり、日本国憲法ではいわゆる社会権が定められています。「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」との第25条は社会権の一つです。最低限度の生活があってはじめて、自由も成り立ちうるものだと個人的には強く思います。
大日本帝国憲法は一度も改正されませんでした。日本国憲法もこれまで一度も改正されていません。平成19年現在、日本国憲法は世界で最も長い間改正されていない憲法だそうです。第二次大戦の敗戦国では、ドイツが50回以上、イタリアも10回以上、憲法(基本法)を改正しています。変えれば良いわけではありませんが、一度も変えないのも世界的には極めて異例です。また、イギリスでは憲法改正と法律改正に根本的な違いはありません。これはイギリスの憲法が一つの法律の形式をとっておらず、いくつもの古い法律や不文律の集合体であるためです。このような憲法を不文憲法(不成典憲法)と言います。反対が、日本国憲法なような成文憲法(成典憲法)です。世界で最も古い成文憲法は、1787年アメリカ合衆国憲法です。近代国家の形式はたかだか200年強にすぎません。
アメリカのような人工国家は憲法に基づいて誕生しますが、イギリスや日本のような古い社会は国家が憲法より先に存在します。憲法は国家にたがをはめるために存在します。憲法改正に反対する人は、現行憲法の枠組みで国家にたがをはめ続けたいと思っているのでしょう。しかし、非常に重要ではありますが、憲法といえども社会の制度にすぎません。憲法を尊重するにしても、神仏として崇める必要はないですし、何よりも人々の日常や現実のためにあることを忘れるべきではありません。
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