3−7 貿易赤字
赤字は企業であれ、家計であれ困った状況です。しかし、貿易の話になるとちょっと意味が変わります。貿易とは輸出と輸入です。輸出は海外への売上なので、個別企業にとってはプラスの現象です。しかし、輸入も原料や海外の便利な商品が入ってくるのですから、国内の消費者や加工業者にとってはプラスです。国全体で輸出よりも輸入が多いのが貿易赤字です。国内の貿易赤字は外国にとっては貿易黒字です。黒字を手にした国は、海外の株や不動産につぎこむことになります。たとえば、日本国内に投資を受けることは見方を変えると、外国に資産を買われることです。アメリカであれ、日本であれ、ヨーロッパであれ、外国に土地などの資産を買われることには反発が見られます。しかし、高い値をつける買い手は売り手にとっては悪くありません。いやなら、国内の買い手に安く買ってもらうか、売らないほかないでしょう。
アメリカは世界最大の経済大国であり、有名な貿易赤字国です。世界経済に君臨していた頃のイギリスもずっと貿易赤字でした。貿易赤字であることと国力は別問題です。国内貿易で考えれば、東京もニューヨークも国内貿易赤字です。ですが、東京もニューヨークも別に困っていません。アメリカの貿易赤字が問題だとの指摘は数十年前からあります。でも、貿易赤字にも関わらす、アメリカはずっと経済大国の地位にいます。アメリカの貿易赤字はアメリカGDPの1~2%の間です。イギリスやカナダやオーストラリアと同じか低いくらいです。国際的にはよくある水準です。
輸出が多ければよいというわけではありません。輸出も輸入も重要度は同じです。特に資源が少ない日本にとっては、資源を輸入できる貿易体制は不可欠です。第二次世界大戦の原因の一つは資源輸入の先細りでした。対照的に、自由貿易のおかげで戦後日本は経済成長を謳歌しました。戦後の自由貿易体制で最も得した国は日本でしょう。自由貿易に総論で反対する人はまずいませんし、国もほとんどありません。しかし、一部の物品については何かしらの理由をつけて例外扱いしたがるのが常です。競争力のない農産物や工業製品を保護しようとするのは、どの国も同じです。特定業界が保護貿易で利益を受けることは十分にあります。しかし、段階的であっても自由貿易に向かうのが世界的には好ましい流れです。
戦前の植民地経営は赤字だったそうです。発展途上の地域では、交通や通信などの社会基盤を整備しなければなりません。資源や農産物からの収益よりも、長い間、社会基盤整備などの費用の方がかさみます。そして、投資が回収出来る頃になると、社会も豊かになり、現地の人々の独立心も高まります。生存圏や生命線という、よくわからない考えが唱えられ、それにそって植民地獲得に乗り出す歴史が各国で繰り返されました。しかし、植民地経営が長期でうまくいった試しはありません。道徳的観点からでなく、損得勘定で考えても植民地獲得はマイナスでした。他方、貿易は道義的にも、お互いの国の利害でもマイナスではありません。したがって、貿易交渉はたとえ困難であっても、その意義は決して低くありません。
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